「……ん、あ、そこぉ……! あん、だ、だめですってば、ぁ!」
――じゅぽじゅぽという水音と男の嬌声が響くのは、忍術学園の端の方にある倉庫の中。ズボンを足首まで下ろして立っている男の前にしゃがんでいる女は、男の股座に顔をうずめていた。忍び装束で、顔と手だけが空気に触れている。
男はその快感に耐えられないのか、両腕を動かして、上着を握ったり、ぎゅっと握った拳に力を入れたりしている。ぐぽっと一段大きな音がすれば、男はあまりの快感に耐えられず、「あ、あ、あ、あ……!」と細切れの声を出して、せわしなく前後するくのいちの頭を掴んだ。
強い快感の波が押せ寄せた時、なりふり構わずにくのいちの頭を強く抑え、彼女の喉の奥で熱い精を吐き出した。まるで性器でする時のように、最後まで出し切るように何度が腰をゆっくりと振ると、くのいちはやっと口から男の性器を出した。
「はあ、はあ、ん、はあ……」
男が肩で息をする。一方、くのいちは男の苦しそうな気持ちのよさそうな顔を見ると、口の中の精液をごくんと飲み込んだ。それから、後片付けだと言わんばかりに精液と唾液とでぐちゃぐちゃになった男の性器を再び口に入れ、舌で掃除をし始めた。
彼女からすればもう一度同じことを繰り返してもいいのだが、そうしてはいつまでも止め際が見つかりそうになかった。あくまで掃除という体で舌での愛撫を済ませ、ある程度の汚れが取れると、まるで子どもにでもするように男のズボンを穿かせ、腰ひもを結んでやった。
生理的なものなのか涙で濡れた目を手の甲で拭う男を見てかわいいと感じたくのいちは、その流れで頭を撫でた。男はいつものことだと特に気にしなかったが、ふと我に返る。
「もしかして、また、僕の飲んだんですか…… !? 」
「ええ、おいしかったわ」
既に口元まで布で覆っているくのいちは、目元だけで笑って見せた。
「いっつもやめてくださいって言ってるじゃないですか! そんなもの体に悪いんですから、吐き出してください!」
「無理、きっともう消化されたわよ」
そんなはずは無いのだが、男はあまり考えない人物だったので、その言葉をその通り受け取って困った顔をする。「そんなぁ~」と頭を抱える様子を見て、くのいちは微笑みが止まらなかった。
倉庫の外で話し声が聞こえる。くのいちは「それじゃあまたね」とだけ言うと、蔵の小さな窓から飛んで出て行った。
「あっ、出門票にサイン~!」
男はそう叫んだが、ふとバインダーを見てみると、そこには“くのいち”と書かれていた。一体、くのいちの誰なのかは分からない意味の無いサインだったが、彼の役割はとにかく忍術学園に出入りする人物のサインをもらうことなので、彼がそんな細かいことを気にするはずもなかった。
「サインはちゃんと書いてあるから、ま、いっか」
ここのところ、忍術学園ではとある噂が立っていた――くのいちがやってきて、何をするかと思えばそのまま すぐに達してしまったものは数知れず、しかし立派な忍者になるのだというプライドが彼らの口を簡単には割らせなかった。そうして結局のところ下級生たちが偶然上級生とくのいちのやり取りを見てしまい、「○○先輩が女の人を連れ込んでいた」などという噂になって広がるだけだった。
問題は、例え誰かが気配に気付きその姿を捉えたとしても、次の瞬間には逃げられているか、あるいは達してしまっているか……とにかく誰も掴まえることができないので、一種のお化けのような扱いを受けていた。
だが、当の本人であるお化け……もとい、くのいちは、明確な目的を持ってただ一人のために忍術学園を訪れていた。忍術学園の事務員であり門番でもある、小松田秀作である。
彼を端的に表せば、抜けている。とにかく、抜けている。町の扇屋の息子である彼は、立派な忍者になるために忍術学園で事務員をしているのだが、正直なところ、彼が忍者になれるとは誰も思っていなかった。
お茶を汲めば、運ぶ過程で必ずと言っていいほど足を引っかけてこけてしまい誰かに被せてしまう。何か文字を書くとなれば誤字脱字は当然で、勝手に暗号書になってしまう。それでも、入門票と出門票に必ずサインをさせるということについては誰よりも長けていて、どんな凄腕の忍者であろうと彼の捜査網を掻い潜るのは許されていない。
そんなこんなで、差し引きゼロの結果をもたらす彼はこの忍術学園で事務員として働いていた。
そして、お化けとして噂されているくのいちは、秀作のセンサーを掻い潜ることができる忍者の一人だった。彼をめがけて、彼の股間めがけて、気がつけばそこにいる。
戦で溢れるこんな世の中だ、優秀な人物の子種が欲しいだの、好きな人と愛し合いたいなど、そう言った感情も分かる。だが、秀作はお世辞にも優秀だとは言い難いし、一方的な行為に愛情だのが見られる訳もない。
ただ秀作のものを口淫して、出されたものを吸い取るようにして飲み込みそのまま消えていくくのいちの意図は、よく分からなかった。
「あのくのいち、小松田さんのことが好きなんじゃないですか?」
「好きだなんて、そんなぁ!」
「ただの体目的ですよ!」
「かっ、体目的ぃ~ !? 」
「ちょっと、声大きいですよ」
「す、すみません……」
(あの小松田さんがねぇ……)
しかし、秀作が無意味な嘘をつく人ではないことを知っているので、
思えば、彼の肌がつるつるなのはそういったことが理由なのだろうか 半助は羨ましく思った
「そもそも、どういった経緯で知り合ったんですか? まさか、手当たり次第手を出しているわけでもないでしょうし……」
もしそうならば自分にもチャンスがあるかもしれないと、半助はほのかな下心を抱いて質問する。
「それが、ぜんっぜん知り合いでも何でもないんですよぉ~。気付いたらそこにいるって感じで」
まさかストーカーなのかと思った
「ほら、顔とか。くのいちなので変装している可能性がありますけど」
「顔? う~ん、あの人、いっつも忍び装束で目元しか見えないからあんまり分からないです」
ゴホン、とわざとらしく咳をする半助。
「その、口……でするなら、その時に見えるのでは?」
「それが、お恥ずかしながら、顔を見るのも忘れるくらい気持ちがよくって」
照れたように頭をかく秀作を見て、半助はとてつもない羨ましさを抱いた。そんなに気持ちがいいなら、一度ぜひ舐め……もとい、手合わせを願いたい。もちろん、忍者としての技量を競い合う目的で。決して下心からくるものではない、決して。
「とにかく、僕は困ってるんです! どこにでも現れて、すぐにズボンを脱がされるんですから!」
「まあ、それは困りますね……」
あはは、と苦笑いをした半助だったが、心の中では「そんなの大歓迎に決まっているだろう」とツッコみたい気分でいた。
「もし土井先生があのくのいちを見つけたら、縛っておいてください! 僕が飛んで説教しに行きますから!」
「ええ、そのときはもちろん」
他人の惚け話を聞いた気分になった。忍術学園では女と寝るだの、そんなこととは無縁なので、変に妄想してしまって、期待した股間が痛くなってしまった。
煩悩まみれでは忍者失格だとは思いつつも、彼も立派な男である。そういった欲望とは無縁ではないし、まだまだ持て余している年頃である。
くのいちがやって来るという日 実のところ、半助は待ちわびていたが、態度にはそれを示すはずもない。しょうもないことに付き合わされている、という体で、身体は徐々に高ぶりつつあった。
半助は秀作の耳に唇を寄せ、小声で訊く。
「本当に来るんですか?」
「僕、気づいちゃったんです。あのくのいちさん、満月の夜には絶対に僕の部屋に来るってことに……! 一度、乱太郎くんたちに頼んで彼らの部屋で寝させてもらったんですけど、気付いたら僕の部屋にいて……舐められていたんです」
「そ、そうだったんですか……」
「だから、この部屋にいたら絶対に来ます! それで、やってきたところで隣の部屋から土井先生が出てくれば大成功~……というわけです」
「あのっ、欲求不満なら、おすすめの人がいるんですが――」
「だめ」
「ええ~、どうしてぇ?」
どうやら雲行きが怪しくなってきたと半助は感じた。
「あなたじゃなきゃだめなの」
「あなた無しじゃ満足できない体になっちゃったの」
衣擦れの音が聞こえてくる。もしかしてもしかして、これは最悪のパターンなのではないだろうか。
「責任とってよ」
「責任も何も、あなたが始めたことじゃないですかぁ……っあ、ん、んぁ、あ、あ~~~ !! 」
近くでスタンバイさせられていた半助は、障子越しに聞こえる声とシルエットから、色々と膨らませるしかないのだった。
半助は、下半身、特に股間の妙な生温かさで目を覚ました。
うっすらと目を開けて、頭を起こして下半身を見れば、そこには忍び装束の女がいた。初めは、小松田の話を聞いて、そして障子越しに声を聞いて、あまりにも羨ましく感じるばかりに夢を見ているのではないかと思った。
「うわっ! あ、あなたは!」
秀作が困っているという、あのくのいちだった。すると、くのいちは半助の性器から口を離し、人差し指を唇に当てた。
「見つかりたいの?」
暗闇の中でも分かる艶めいた唇が弧を描いて、半助はドキリとする。ぶんぶんと首を横に振って、その唇が再び自らの性器を咥えるのを見てごくりと唾を飲み込んだ。
……確かに気持ちがいい。そうそうこんな経験はしていないが、確かに秀作がくのいちの顔を見るのを忘れてしまうのも頷けた。
だが、半助からすればくのいちが実際に奉仕している姿を見ている方が興奮をかき立てられてよかった。視覚の力は凄まじく、仕事詰めで性欲処理する時間が無かったのも相まって、もうすぐに達してしまいそうだった。
伸ばしたままの脚の指はギュッと縮まって、布団を掴む手にも力が入る。「んっ」と思わず声がでて、手のひらで口を抑えれば、それに気付いたくのいちが「ふふ」と咥えたまま笑った。それは恥ずかしかったが、くのいちが笑った時の振動が想定外の刺激を与えたおかげで、彼は予想しないタイミングで絶頂を迎えたのだった。
ずぞぞと吸うようにして、尿道に残った精液まで残さず舐め取ろうとする。それに同調するように、半助も腰を動かした。
水音を立てて唇を離したくのいちは、上体を起こすと口の中の精液をごくりと飲み込んだ。
「あっ!」
驚きのくのいちの行動に、半助は思わず声を出してしまう。だが、そのまま舌で唇をぺろりと舐める様子に再び目を奪われてしまった。
いつの日か、秀作には「もし見つけたら縛っておいてください」などと言われたことを思い出したが、とてもそんなことはできそうになかった。既に彼女の虜になっていて、彼女の一挙手一投足に期待してしまっている。
くのいちは、忍び装束を脱ぎ始めた。
「ちょっと! ダメですよ!」
口では教師らしくらしく止めるように言うが、体は正直である。目は彼女を捉えて離さないし、股間のそれは再びどんどんと硬くなっている。
「この間はごめんなさいね、意地悪みたいなことをして」
そういいながら、くのいちは半助の寝間着を脱がしていく。目の前で揺れる乳房を見て我慢できなくなった半助は、気付けばそれに触れていた。「ん」と鼻に抜ける女の声が聞こえて気分を良くした半助は、愛撫を始めた。先程舐めてくれてお礼とでも言いたげな。
「あの……」
「小松田さんのどこがそんなにいいんです? 私には、少々不思議に思えるのですが……」
その言葉には、秀作よりも自分の方が良いのではないか、という自惚れが少々含まれていた。
「ナイショ」
「ちょっとぐらい秘密があった方が面白いでしょ」
「あなたは十分、分からないことだらけですけどね」
結局、顔もまともにわからなかった。確かに見えたのは見えたのだが、記憶に残っていないというか。
一体どこから侵入してきたのかもわからず、感じ取らせないほどの気の隠し方も、ただ者ではないということは分かる。そして、房中術にとてつもなく優れているということも。
「それじゃあ」
「それじゃあ、って……丑三つ時ですよ? こんな時間に出歩くのは危険では」
「あら、私がプロくのいちだってことをお忘れ?」
「忘れてはいませんが、朝まではここでゆっくりしていったって……」
半助は、無意識のうちに下心のある提案をした。すると、くのいちは笑う。
「情がうつったら困るもの」
その不敵なほほえみは、月夜に照らされていた。まさか、自分に好意があるのかと期待を膨らませた半助だったが、すぐに「もう少し感情を隠す練習をしましょうね」と言われてしまっては、淡い期待も無残に散った。
2026.1.24